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船井電機、苦境からの新たな一歩 – 原田義昭会長による蓄電池生産新会社設立。会長は国会議員
2025.04.03
かつて「世界のFUNAI」として名を馳せ、特に北米市場で高いブランド認知度を誇った船井電機は、ビデオカセットレコーダー(VCR)などの製品で一時代を築き、ウォルマートなどの大手小売業者との提携を通じてアメリカ市場で確固たる地位を確立しました。家庭用コードレス電話機を発明したことでも知られています。しかし、2000年代以降、海外の新興メーカーとの競争激化や市場の変化に直面し、業績は徐々に悪化の一途を辿りました。DVDや液晶テレビなどのAV製品を主力とするも、価格競争の波に乗り切れず、2017年には創業者の船井哲良氏が逝去し、経営の舵取りは一層困難となりました。
2021年には、出版社の秀和システムホールディングスによる株式公開買い付け(TOB)を受け、上場廃止となりました。再建を目指したものの、2024年10月には創業家出身の取締役により準自己破産が申請され、東京地方裁判所から破産手続き開始の決定を受けるに至りました。東京商工リサーチの調査によると、2024年9月末時点で117億円の債務超過に陥っており、実質負債は800億円に達していたことが明らかになっています。約550名の従業員が解雇されるなど、その影響は甚大です。
このような状況下、船井電機の会長である原田義昭氏が、2025年4月2日に東京都内で記者会見を開き、蓄電池生産に特化した新たな会社を設立する計画を発表しました。この新会社の設立は、破産手続きが進む中で職を失った従業員の雇用を創出することを主な目的としています。本稿では、この衝撃的な発表の詳細、原田会長の経歴、現在の船井電機の状況、そして新会社設立の背景や事業内容について深く掘り下げていきます。
船井電機を率いる人物 – 原田義昭会長の肖像
現在の船井電機の代表取締役会長を務めるのは、原田義昭氏です。1944年10月1日に福岡県で生まれた原田氏は、1968年に東京大学法学部を卒業しました。その学歴に加え、修猷館高校、アメリカ・オクラホマ高校、小山台高校といった名門校を卒業しています。また、通商産業省(現在の経済産業省)に入省後、中小企業庁参事官や渡辺美智雄通産大臣秘書官などを歴任し、1970年代にはアメリカのタフツ大学大学院にも留学しています。
1990年には衆議院議員に初当選し、その後8期にわたり国政に携わってきました。厚生政務次官、文部科学副大臣、衆議院外務委員長、衆議院財務金融委員長といった要職を歴任し、2018年から2019年には安倍内閣で環境大臣と内閣府特命担当大臣(原子力防災)を務めました。彼の幅広い経験は、経済政策や環境問題に深く関わってきたことを示しています。
原田氏は政界での活動に加え、弁護士としても登録しており、福岡弁護士会に所属しています。また、日本介護事業連合会の副会長も務めており、「木の総合文化を推進する議員連盟」では幹事長を務めるなど、多岐にわたる分野で活動しています。長年の功績が認められ、2024年3月には旭日大綬章を受章しています。2024年9月に船井電機の会長に就任したばかりというタイミングでの破産手続き開始は、多くの関係者に驚きを与えました。
年 | 役職/活動 | 所属/機関 |
---|---|---|
1968年 | 入社 | 新日本製鐵株式会社 |
1970年 | 入省 | 通商産業省 |
1990年-現在 | 衆議院議員 | |
1997年 | 厚生政務次官 | |
2003年 | 文部科学副大臣 | |
2006年 | 衆議院外務委員長 | |
2007年 | 衆議院財務金融委員長 | |
2018年-2019年 | 環境大臣・内閣府特命担当大臣(原子力防災) | 第四次安倍改造内閣 |
2024年3月 | 受章 | 旭日大綬章 |
2024年9月-現在 | 代表取締役会長 | 船井電機株式会社 |
2025年4月- | 取締役(予定) | 新会社(名称未定) |
幹事長 | 木の総合文化を推進する議員連盟 | |
副会長 | 日本介護事業連合会 | |
所属 | 福岡弁護士会 |
かつての栄光と現在の苦境 – 船井電機の現状を分析する
1961年8月、船井電機は大阪市生野区に資本金20百万円で設立されました。トランジスタラジオ部門を分離独立させる形で誕生し、その後、多様な家電製品を安価かつ大量に生産する能力に長けていました。独自の生産システム「F.P.S.(フナイ・プロダクション・システム)」は、トヨタ生産方式を徹底的に研究することで生み出され、そのコスト競争力の源泉となっていました。製品は主に海外への輸出や他メーカーへのOEM供給として販売され、1990年代以降はテレビ・ビデオ機事業が主力となりました。特に北米市場では、1990年代後半から2000年代前半にかけてビデオデッキで5割超、テレビデオで6割超のシェアを握り、北米最大のテレビ・ビデオ機メーカーとなりました。
しかし、2010年代に入ると、北米の低価格帯テレビ市場で中国・台湾メーカーとの価格競争が激化し、経営が悪化しました。2000年度には3535億円だった売上高は、2017年度には1338億円にまで落ち込みました。2017年にはヤマダ電機との協業により国内市場に再参入し、「FUNAI」ブランドで4Kテレビや4Kブルーレイレコーダーに注力しましたが、経営は好転しませんでした。
2021年5月には、秀和システムホールディングスによる株式公開買い付けが成立し、同年8月に上場廃止となりました。その後、美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を買収するなど事業の多角化を図りましたが、これが経営悪化に拍車をかける結果となりました。2023年3月には持株会社体制に移行し、「船井電機・ホールディングス株式会社」に社名変更、事業部門は新設された「船井電機株式会社」が承継しました。しかし、2024年10月24日、船井電機の取締役が東京地裁に準自己破産を申し立て、即日破産手続き開始決定を受けました。負債総額は約461億5900万円に上ると報じられています。
現在、破産手続きが進む中で、船井電機の事業活動は大幅に縮小していると考えられます。かつて協業していたヤマダ電機は、「FUNAI」ブランド製品のアフターサービスについては責任を持って対応するとしていますが、新たな製品の出荷には大きな影響が出ている可能性があります。一方で、関連会社の船井サービス株式会社は、家電製品のアフターサービスに加え、V2H(Vehicle to Home)システムの販売や設置工事、EV充電設備の販売なども手掛けており、一部事業は継続されています。
年 | 出来事 |
---|---|
1961年 | 船井電機株式会社設立 |
2000年代 | 北米市場でビデオデッキ・テレビデオで高シェア獲得 |
2017年 | ヤマダ電機と協業し、日本市場に「FUNAI」ブランドで再参入 |
2021年 | 秀和システムホールディングスの傘下に入り上場廃止 |
2023年 | 持株会社体制に移行、「船井電機・ホールディングス株式会社」に社名変更、事業部門は新「船井電機株式会社」へ |
2024年10月 | 東京地裁が船井電機株式会社の破産手続き開始を決定 |
再起への狼煙か – 蓄電池生産新会社設立の全貌
船井電機の破産手続きが進む中、原田会長は民事再生法の適用を求めて東京地裁に申し立てを行いましたが、2025年3月14日に棄却されました。これを受け、即時抗告を見送った原田会長は、新たな道として蓄電池生産に特化した新会社を設立する計画を発表しました。
2025年4月2日に東京都内で開かれた記者会見で、原田会長は新会社設立の目的を、船井電機の破産によって職を失った従業員の雇用受け皿とすることを強調しました。月内に法人登記を行い、事業開始は半年後以降になる見通しを示しています。
新会社の名称については、「船井」という名前を残したい意向を示していますが、権利関係などを精査して決定するとしています。工場については、船井電機の既存の施設を含め、複数の候補地から最適な場所を選定する方針です。資本金や役員構成などの詳細については、現時点では明らかにされていませんが、新会社は船井電機やその関連会社とは資本関係を持たない独立した法人となる予定です。
原田会長は会見で、「(従業員は)可能な限り戻ってきて、新事業に取り組んでほしい」と述べ、長年培ってきた従業員のノウハウや技術を新たな事業に活かしたいという強い思いを示しました。民事再生による船井電機の再建を模索していた原田会長にとって、この新会社設立は、苦境を乗り越え、新たな一歩を踏み出すための戦略的な転換と言えるでしょう。
新会社は何を目指すのか – 蓄電池事業の詳細と展望
新会社が具体的にどのような種類の蓄電池を生産するのかについては、現時点では詳細な情報は公開されていません。しかし、船井電機が以前から再生可能エネルギー分野への関心を示しており、AV事業の売却と並行して蓄電池事業への参入を検討していたという報道もあります。また、関連会社の船井サービスがV2Hシステムを取り扱っていることから、家庭用や電気自動車向けの蓄電池システムに関する一定の知見を有している可能性も考えられます。
ターゲットとする市場についても、現時点では明確な言及はありません。しかし、再生可能エネルギーの普及に伴い、家庭用蓄電池、産業用蓄電池、そして電力系統安定化のための系統用蓄電池など、幅広い分野での需要拡大が期待されています。原田会長の環境大臣としての経験を踏まえると、環境負荷の低減に貢献できるような事業展開を目指す可能性も考えられます。
技術的な特徴や具体的な事業計画についても、現段階では情報は限られています。ただし、船井電機がかつて培ってきたコスト競争力や生産効率化のノウハウは、蓄電池の製造においても活かされる可能性があります。2021年のニュース記事では、船井電機がAV事業から多角化し、美容・医療、リサイクル、自動車関連、デバイスといった分野を主要ドメインとして事業拡大を目指す中期目標を掲げていたことがわかります。蓄電池事業への参入は、これらの方向性と合致する動きと言えるかもしれません。
なぜ今、蓄電池なのか – 船井電機グループの戦略と影響
船井電機の会長である原田氏が、このタイミングで蓄電池生産という新たな事業に乗り出す背景には、いくつかの要因が考えられます。最も直接的な理由は、船井電機の破産によって職を失った従業員に対する雇用対策です 8。長年培ってきた技術や経験を持つ人材を再雇用し、新たな事業の核とすることで、早期の事業立ち上げと安定化を目指す意図があると考えられます。
また、世界的に再生可能エネルギーの導入が進む中で、蓄電池の需要は急速に拡大しています 31。太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーは出力が不安定であるため、電力を効率的に貯蔵し、必要な時に供給できる蓄電池の役割がますます重要になっています。原田会長は、環境大臣を務めた経験から、この分野の成長性と将来性を見据えている可能性があります。
さらに、関連会社の船井サービスがV2Hシステムを手掛けていることは、船井電機グループ内に一定の蓄電池技術やエネルギー管理システムに関する知見が存在することを示唆しています。これらの既存の技術やノウハウを、新たな蓄電池生産事業に活用できる可能性も考えられます。
新会社の設立は、破産した船井電機本体とは資本関係を持たない独立した事業体として立ち上げられる予定です。これにより、旧会社の負債や信用不安といった影響を避け、新たなスタートを切る狙いがあると考えられます。また、蓄電池市場への新規参入は、既存の競合他社との間で新たな競争を生み出す可能性があります。
結論 – 船井電機の未来と新会社の可能性
かつて世界を席巻した日本の電機メーカー、船井電機は、時代の変化と市場の波に乗り切れず、破産という苦境に立たされました。しかし、その会長である原田義昭氏が、失われた雇用を取り戻し、新たな成長の機会を創出すべく、蓄電池生産という新たな事業に果敢に挑戦しようとしています。
新会社が直面するであろう課題は決して小さくありません。競争の激しい蓄電池市場において、いかに独自の技術や製品を開発し、市場での地位を確立していくかは、今後の大きな焦点となります。また、資金調達や生産体制の構築、販路の開拓など、多くのハードルを乗り越えていく必要があります。
しかし、再生可能エネルギー分野の成長という追い風を受け、原田会長のリーダーシップと、長年培ってきた船井電機の従業員の経験と技術力が結集すれば、新たな活路を見出す可能性も十分にあります。この新会社設立の動きは、単なる雇用対策に留まらず、船井電機というブランドの精神を受け継ぎ、新たな形で社会に貢献していくための、再起への狼煙となるかもしれません。今後の動向を注視していく必要がありそうです。
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